勤務成績不良、能力不足を理由とする普通解雇とは?
他の従業員と比べて、著しく能力が低かったり勤務成績が悪かったりする従業員は会社にとっては戦力になりません。できれば、やめてほしいと考えることもあるでしょう。
ただ、企業が従業員を解雇することは、そう簡単ではありません。
勤務成績不良や能力不足を理由とする場合、普通解雇が認められる必要があります。
以下で、詳しくご説明します。
成績不良・能力不足は懲戒事由にならない
特に経営不振でもない通常時に会社が従業員を解雇しようとするとき、方法として考えられるのは懲戒解雇と普通解雇です。
懲戒解雇は、従業員に非行がある場合にのみ認められる解雇ですが、成績不良や能力不足は懲戒事由には該当しません。
そこでこの場合、普通解雇を目指すことになります。
普通解雇が認められる要件
それでは、普通解雇はどのようなケースで認められるのでしょうか?
まずは、法律上の制限にかからないことが必要です。
たとえば、業務上のケガや病気での休暇中や、その後30日間は解雇ができませんし、女性であることや信条、労働基準監督署への通報などを理由とする解雇も認められません。
次に、解雇予告または解雇予告手当の支給が必要です。解雇をするときには、30日以上前に解雇予告をしなければなりません。
それができない場合には、解雇までに足りない日数分の賃金を支払わなければならないのです。
さらに普通解雇の場合、解雇が解雇権の濫用にならないことも必要です。
解雇に「合理性」と「社会的相当性」が必要になるのです。
合理性とは、誰が見ても解雇が相当と考えるような従業員の行動。社会的相当性とは、企業が解雇を避けるために従業員を指導教育するなどした経緯があり、社会通念上解雇がやむを得ないと判断されるような事情があることをいいます。
能力不足を理由に解雇しようとするとき、多くのケースでこの合理性と社会的相当性が問題となります。
能力不足で普通解雇が解雇権濫用にならない場合
能力不足や成績不良で行う解雇が解雇権の濫用にならない場合とは、どのようなケースなのでしょうか?
まず、労働者の能力が平均的な他の従業員と比べて低い、というだけでは解雇の合理性は認められません(東京地裁平成11年10月15日)。労働者の能力評価は、基本的に相対評価ではなく絶対評価で行います。その従業員を単独で見ても、著しく能力が低いことが必要ということです。
また、降格などの他の方法によっても対応が可能なケースでも、解雇は無効と判断されます(大阪地裁平成14年3月22日)。
これらに対し、労働者の能力や適格性の問題が重大で、企業が教育や配置転換を行っても雇用の維持が難しい場合、解雇は有効となります(東京地裁平成6年11月10日)。
高い能力があることを前提に中途採用された従業員が前提となった能力を発揮できなかった場合においては、通常の事案よりも解雇が有効になりやすいです(東京高裁昭和59年3月30日、東京地裁平成14年10月22日など)。
以上のように、能力不足や成績不良によって普通解雇を行うときには解雇権濫用とならないかを慎重に見極める必要があります。
自社では判断がつきにくい場合は、弁護士にご相談下さい。
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