心身の故障を理由に解雇できる?
従業員が体調を崩し、長期にわたって仕事ができない場合など、企業としては辞めてほしいと考えることがあります。
ただ、病気やケガをしたからといって、簡単に解雇が認められるわけではありません。
今回は、心身の故障を理由として、企業が従業員を解雇できるのか説明します。
心身の故障は解雇理由になる
従業員がケガや病気になると、勤務の継続が難しくなる場合があります。
病気やケガは、労働者本人に非行がある場合とは異なるので懲戒解雇はできませんが、原則通り、普通解雇ならできる可能性があります。
使用者と従業員の間には労働契約が締結されていますが、従業員が適切に業務を遂行することは労働契約の内容となっています。病気やケガで働けないということは、従業員が契約上の義務の履行ができなくなったことを意味します。
そこで、多くの会社では、就業規則において「身体の障害によって、業務ができなくなったこと」を普通解雇事由としています。
業務上のケガや病気の場合
就業規則に書いてあるからといって、心身の故障を起こした従業員をいつでも解雇できるわけではありません。
業務上のケガや病気の場合には、解雇に法律上の制限があります。
この場合、治療目的での休業期間と、その後30日間は企業が解雇をすることが認められていません(労働基準法19条1項)。
ただし、療養開始後3年が経過した後に企業が打切補償を支払った場合や、従業員が傷病補償年金の支給を受けている場合には、例外的に解雇できます。
解雇権濫用になると解雇できない
上記以外の事案でも(法律上解雇が禁止されない場合)、傷病を負った従業員を解雇するには高いハードルがあります。
労働契約法16条は、使用者が労働者を解雇するためには、解雇の合理性と社会的相当性が必要であると定めています。
解雇の合理性とは、解雇されても致し方ないという従業員側の事情。解雇の社会的相当性とは、解雇を回避するためのあらゆる方策をとったなどの事情があり、会社が解雇という手段をとるのもやむをえないことです。
従業員が私的な理由で傷病を負ったケースでも、こうした解雇の合理性と社会的相当性がない限り、解雇は無効と判断されます。
心身の故障が原因による解雇が判断された事例
心身の故障が原因による解雇が問題になったケースには、どのようなものがあるのでしょうか?
靴の修理や合鍵の作成を行う会社において、腰痛の持病をもった従業員が解雇された事例があります。このケースでは、会社の業務は腰に負担をかけるものであることを重視して、業務遂行が困難と判断されて、解雇を有効としました(大阪地裁平成4.6.1)。
従業員が生体腎移植を受けたあと、体調不良でほとんど出社ができなかった事案においても、「業務に耐えられない」とされ、解雇が有効と判断されています(東京地裁平成20.9.22)。
反対に右半身麻痺になった教諭について、本人が努力していることや、本人の姿を生徒に見せることにより、生徒の人格形成等に役立つとして、解雇を認めなかった例もあります(札幌地裁小樽支部平成10.3.24)。
以上のように、心身の故障を理由とした解雇については、解雇権濫用にならないかどうか、微妙な判断が必要です。
自社では適切な判断が難しい場合は、弁護士にご相談ください。
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