裁判所で解雇が無効とされる場合とは?
会社が従業員を解雇しても、必ずしも有効になるとは限りません。
従業員が裁判を起こすと、解雇が無効と判断されてしまうことがあります。
裁判所で解雇が無効になるのは、どういったケースなのでしょうか?
今回は、裁判になったときに解雇が無効になる場合について解説します。
解雇が法律上認められない場合
従業員が「不当解雇」を主張した場合に解雇が無効になる原因は、大きく分けて2つあります。
1つは、解雇が法律上認められないケースです。もう1つは、解雇が解雇権濫用になる場合です。
まずは、解雇が法律上認められないケースから確認しましょう。
法律上、解雇ができる理由やケースは限定されています。
まず、差別的な解雇ができません。たとえば、信条や労働組合の活動、性別などにもとづく解雇が禁止されています(労働基準法3条、労働組合法7条、男女雇用機会均等法6条4号)。
また、産前産後休暇や業務上のケガや病気で休業する期間と、その後30日に解雇をすることも禁じられます(労働基準法19条1項)。
このような法律上の規定に反して解雇をすると、裁判になったときに解雇は無効となります。
解雇権濫用になる場合
解雇が法律上禁止されなくても、「解雇権濫用」とみなされると、その解雇は無効となります。
解雇をするときには、解雇に合理性と社会的相当性がないと有効にならないのです(労働契約法16条)。
たとえば、ある従業員が他の従業員の平均よりも能力が低いからといって解雇することは認められません。業務成績が悪くても適切に指導教育すれば改善する可能性がある場合には、解雇の合理性や相当性がないと判断されます。
裁判を起こされて解雇が無効と判断されると、未払賃金や慰謝料の支払い命令なども下されてしまいます。
以下で、解雇を無効とした裁判例をご紹介します。
判例1 業務成績が悪いために従業員を解雇した事案
このケースでは、従業員に人事考課を実施し当該従業員が下位であったことや、従業員の対応が悪くて取引先から苦情がきたこと、勤務態度が悪いことなどを理由として解雇が行われました。裁判所は、「相対評価により、下位のものを解雇することは相当ではない」として、解雇の効果を否定しました(東京地裁平成11年10月15日)。
判例2 遅刻の多い従業員を解雇した事案
この事案では、他にも遅刻していた従業員がいましたが、そうした従業員は解雇されておらず、1人は事務局長にまで昇進しているという事情がありました。
裁判所は、その取扱いと比較して解雇の合理性や相当性が認められないとして、解雇の効果を否定しています(東京地裁平成8年8月20日)。
判例3 放送局の従業員が放送事故を起こし、会社に迷惑をかけた事案
この事案で裁判所は、当該従業員が起こした事故が重大であったことを認めながらも、従業員に故意がなく、過失にもとづくものであったことなどを理由として解雇が相当とは認めず、解雇を無効と判断しています(最判昭和52年1月31日)。
以上のように、会社が従業員を解雇できる場合は非常に限定されています。
普通解雇ができる場合は、たとえば従業員が長期にわたって無断欠勤を続けていたり、犯罪行為に近い非行を行ったりした場合などです。
裁判になったときに解雇が認められるどうか、自社では適切に判断ができない場合には、弁護士に相談してみてください。
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