退職勧奨とは?
退職勧奨とは、会社が労働者に対し、自己都合で退職をさせようとすることです。
会社が、ある従業員を辞めさせたいと考えたとき、解雇するよりも自主的に退職してもらった方がリスクが小さく確実です。
ただ、退職勧奨が違法と評価されてしまうこともあるので、注意が必要です。
以下では、退職勧奨と、それが違法とされるケースについて解説します。
退職勧奨は自己都合で退職させること
会社が従業員を辞めさせたいと考えても、簡単に解雇することはできません。
契約期間のない従業員の場合、解雇するには、解雇権濫用とならないよう、解雇の合理性や社会的相当性という厳格な要件が必要です。
従業員側に相当大きな問題がない限り、解雇は認められません。
そこで、会社側が従業員に対し、自主的に退職するように勧告することがあります。これが退職勧奨です。
退職する義務はない
会社から退職勧奨を受けたとき、従業員には退職する義務はありません。
退職勧奨は、あくまで「退職しませんか?」という誘いであり、命令ではないからです。
退職勧奨が違法になるケース
退職勧奨は、あくまで会社から従業員に対する申し入れです。
しかし、これが強要になると違法になるケースがあります。
例えば、脅迫的な言動が用いられるなどして、社会的に不相当な方法で退職勧奨が行われた場合には、退職勧奨が不法行為となります。
この場合、従業員側から会社に対し、慰謝料請求することも可能となります。
退職勧奨が違法になるかどうかの判断基準は、下関商業高校事件という事件の判例で明らかにされています(最判昭和55年7月10日)。
この事件では、高校の教員2名に対して、繰り返し退職勧奨が行われたことが違法かどうか問題となりました。
裁判所は、会社による退職勧奨行為が、労働者の任意の意思形成を妨げる場合や名誉感情を害する言動があった場合などには違法となり、不法行為となると判断しています。
つまり、労働者が自由意思で、退職するかどうかを決定できたかどうかが判断基準となります。
この事案では、原告の1人が「3か月間に11回」、もう1人が「5か月間で13回」という頻繁な頻度で退職勧奨が行われており、それぞれ20分から2時間あまりに及ぶ長時間の勧奨がありました。
使用者側から「辞めてもらったら欠員の補充ができる」などの発言もありました。そこで、任意の意思決定が不可能であったと判断されて、退職勧奨が違法と認定されています。
他の裁判例を見ても、退職勧奨の回数や期間、具体的な言動がポイントとなっています。
以上のように、退職勧奨はそれ自体が違法ではありませんし、従業員が真に納得していれば問題はありません。
しかし、強要になると違法となりますし、損害賠償の問題も発生します。
退職勧奨をする場合もされた場合も、それが妥当な範囲であるかどうかの判断ができない場合には、弁護士に確認することをお勧めします。
関連記事合わせてお読みください
-
なぜ就業規則を準備しなければならないのか?
会社が従業員を雇い入れるときには、当然のように「就業規則」を作成するものです。 ただ、なぜ就業規則が必要なのか、具体的に考えたことがある方は少ないのではないでしょうか? 今回は、なぜ就業規則を……
-
解雇と未払残業代の関係について
従業員が会社に対して未払残業代を請求すると、会社との間でトラブルになることがあります。 ときには会社が従業員に対し、未払残業代の請求を原因として解雇してしまう例もあります。 未払残業代の請……
-
解雇予告と解雇予告手当について
会社が従業員を解雇するときには、原則的に解雇予告が必要です。 ただし、解雇予告ができない場合、解雇予告手当を支払うことにより解雇が認められています。 今回は、解雇予告と解雇予告手当について……